「だいちの星座」について

コンセプト

 私達は、天気予報や電子地図等で、宇宙から眺めた地球の姿を日常的に眼にしています。こうして地球外の視点によって受動的に得られた映像から、人々は自らが生活する社会の延長に世界が広がっていることを認識してきました。

 近年、アメリカ航空宇宙局(NASA)によって国際宇宙ステーションから24時間地球を撮影し続けるリアルタイム映像の配信が行われるなど、地球外の視点を利用して地球を観測する科学技術が進歩し、世界中の人々が地球外の視点を利用して能動的に地球観測を行う環境が整いつつあります。

 かつて宇宙飛行士等の限られた人々が伝えた言葉や映像によって育まれた私達の地球観は、様々なレベルの新たな地球外の視点を利用して得られる私達の「体験」によって徐々に変化していくと考えられます。さらに、これらの視点を能動的に利用する環境が整うことで、人工衛星等を利用して人と地球を直接繋ぐ地球観が共有されていくのではないかと考えています。

 本研究は、人々が美術と科学を通じて地球外の視点を能動的に利用し、新たな社会認識の方法を体験することを目的とした表現技術の開発を目指します。

活動の内容

 軌道上で定点観測された画像から、刻々と移り変わるダイナミックな街の変化を観測し、地球上に生きる私達の日常について考えます。地球観測衛星を利用して宇宙から地上を撮像すると、車や船舶の移動や樹木の成長などの普段生活の中であまり意識していないまちの変化を定点で捉えることが出来ます。変化した場所を画像解析によって抽出することで、人々の様々な生活の痕跡が記録されます。

 これらの点を夜空の星に見立て、町をキャンバスとし、地上に「星空」を描きます。小学校のグラウンド等に大きな反射装置を置き、これらを人工衛星から撮像することで、「星空」に星座を描き入れ、人工衛星を利用した新たな美術表現技術を開発します。地上に設置された反射装置が人工衛星から撮像され、画像解析により抽出されると、その位置が周囲より明るく強調されます。私達は2010年に金沢市内にて陸域観測技術衛星「だいち」を利用した実験において、反射装置を衛星画像に記録させ、画像解析による抽出に成功しました。

 地上に設置する反射装置はアルミ箔と発泡スチロール板、塩化ビニール製のパイプと金網など身近な材料を組み合わせることで制作が可能です。簡単に組み立てが可能で、保管スペースを小さくする工夫がなされた簡易型の反射装置を考案し、牧場や大学グラウンドなどで実験を重ねてきました。私達は、世界の町で入手可能な安価な素材を利用し、人工衛星を利用した地上絵制作による芸術教育プログラムを開発し、この手法を広めようとしています。

 種子島での制作は、種子島宇宙センターのある南種子町立小学校8校、南種子町商工会、等が協力して2013年度より準備が進められてきました。地元教育委員会を通じ、各小学校への協力体制が整い、この4月にはJAXA史上初となる種子島宇宙センターにて搭載前の本物の人工衛星を地元小学生が見学する教育プログラムを実現させました。2014年12月26日には金沢美術工芸大学の学生らが製作したハンドメイドの電波反射器を、金沢美術工芸大学と鹿児島大学教育学部(美術専科)の学生らが協力して南種子町の小学校8校のグラウンドに配置し、「だいち2号」からこれらの電波反射器が無事撮像されたことが確認されました。種子島での活動には種子島宇宙センターの協力を得て、同センター広場内にも電波反射器を配置することが出来ました。また、この撮像の際に、各電波反射器を取り囲むように小学校児童や教員らによる人間リフレクタの配置も行われ、観測画像上にその反応が記録されていることが確認されました。

研究の経緯

 「だいちの星座」のベースとなる研究は、金沢美術工芸大学 美術科准教授 鈴木浩之(以下、鈴木)によって2010年に実施された陸域観測技術衛星「だいち」(以下「だいち」)を利用した地上絵制作技術の開発からスタートました。「だいち」にはPALSARとよばれるセンサが搭載されており、人工衛星から発信したマイクロ波を地上で反射させ、レーダーによって地表の形の変化を観測する機能があります。「だいち」は地上から約690㎞上空の決まった軌道上を通って地球上をくまなく観測するため、46日周期で宇宙空間の同じ視点から特定の場所を定点観測することが可能で、この機能を利用して同じ視点から2度同じ都市を撮像し、地表の形の差を分析しました。この時、都市に発生した46日分の地表の形の変化を示した一枚の画像は、予想以上に変化した地点が多く表示され、街全体がダイナミックに変化している様子が数々の点となって現れており、その変化量の強弱によって大きさやコントラストが異なる無数の点は、さながら夜空を撮影した宇宙のパノラマを思わせる画像となりました。「だいち」は2011年5月12日に電力異常により交信不能となり運用を終えましたが、後継機として性能を向上させた陸域観測技術衛星「だいち2号」(以下「だいち2号」)が2014年に打ち上げられる事となり、「だいち」での実験で培った技術を利用した地上絵制作が再開されることとなりました。

現在の活動

 鈴木は宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)地球観測研究センター開発員の大木真人との共同研究により、「だいち2号」に搭載されるセンサPALSAR-2を利用した地上絵の制作を行うための美術表現技術の開発を行う目的で、「だいち2号」打ち上げ後に南種子町を撮像した画像を得ます。「だいち」での実験と同様に、数か月後にもう一度同じ地域を撮像した画像を得て、2つの画像を差分解析することにより、当該期間に人間活動(例:自動車の移動や農作物の収穫等)により地上の反射率が変わった部分を(地上に浮かび上がる星のように)浮かび上がらせる予定です。南種子町での撮像では、2度目の撮像の際に、意図的に反射の強い板を置くことにより光の強い「星」を意図的に作り出そうと考えています。この原理を応用して、南種子町に所在する8つの小学校の校庭及び種子島宇宙センターに反射板を置き、南種子町にしか作り出せない形の星座を作り出す「たねがしま座」プロジェクトを実施します。児童達には、校庭に設置する反射板の配置に参加してもらい、出来上がる地上の星座(黒い地表に9つの星が浮かび上がっているように見える)の予想図をもとに自由な発想で新たな星座を考察してもらおうと考えています。手順としては、「だいち2号」の利用が開始された後「たねがしま座」を宇宙から撮像する実施日時を決定し、次に、実施の為の準備日、及び、実施日時には南種子町の全小学校と連携し、各小学校グラウンドにリフレクターを配置します。最後に人工衛星から「たねがしま座」の撮像を行い、撮像した2枚の衛星画像を重ね合わせ、違いが大きい場所を解析して、違いのある部分だけを抽出した新しい画像を作りだします。星空を思わせるこの画像は南種子町の皆さんで描いた地上絵(美術作品)としてポストカードが製作され、参加者に配布されます。

今後の活動

 「だいちの星座」プロジェクトで実施されるプロセスは、理論的には「だいち2号」が上空を通過する世界各国の様々な都市で実施可能です。金沢美術工芸大学 鈴木浩之研究室では、種子島に加え、イギリス、日本(つくば市、守谷市、金沢市)のそれぞれの地域の大学や団体の協力による「たねがしま座」をモデルとしたプロジェクトの実施を準備しており、「たねがしま座」プロジェクトはその試金石となります。金沢美術工芸大学 鈴木研究室では、「だいち2号」を利用したこれら一連のプロジェクトを「だいちの星座」計画と総称し、2016年にJAXAとの共同研究が終了するまでの間に、各地の大地に輝く無数の「星」の上に、(その大地に暮らす人々と共に)新しい「星座」を描いていきたいと考えています。世界中の都市へと展開する可能性を持つ「だいちの星座」計画の今後の展開にご期待ください。

ロゴデザイン原案:吉田勘汰(2014年度 金沢美術工芸大学大学院 修士課程1年次)